法人成りでまず決めるのは「どの日をもって個人事業を終え、法人として動き始めるか」です。登記が完了した設立日と、実際に取引や口座を切り替える日は通常ずれます。設立日にこだわる必要はなく、請求・入金・仕入の相手先を法人に切り替えた日を基準日とし、個人側はその日をもって廃業とするのが最も整理しやすい方法です。
たとえば法人を10月1日に設立し、個人事業の取引が12月まで続いていたなら、個人は12月末で廃業、法人は1月から本格稼働、という整理もあり得ます。その場合、個人の最終年の確定申告(廃業日まで)と、法人の第1期の申告の両方が必要になります。
個人側の廃業届は廃業の日から1か月以内が期限です(所得税の青色申告の取りやめ届、給与支払事務所等の廃止届、消費税の事業廃止届も同時に)。
| 項目 | 引継ぎの考え方 |
|---|---|
| 現金・預金 | 引き継ぎません。法人は資本金の入金から始め、個人口座は個人で整理します |
| 売掛金・買掛金 | 原則は引き継がず、個人で回収・支払いまで完了させます。引き継ぐ場合は相手先への通知と同意が必要です |
| 棚卸資産(商品・材料) | 時価で法人に売却。通常の販売価額の70%を下回る価格だと低額譲渡として差額が個人の収入とされます |
| 車両・機械・備品 | 時価(中古市場価格や未償却残高を参考)で法人に売却。時価の2分の1未満で売ると「みなし譲渡」として時価で売ったものと扱われます。個人側では譲渡所得の計算(総合課税・特別控除50万円)が必要です |
| 敷金・保証金 | 賃貸人の承諾を得て名義変更、または個人が返還を受けて法人が新たに差し入れます |
| 借入金 | 後述。金融機関の手続きが必要です |
資産の移し方には「売買」「現物出資」「賃貸(個人が法人に貸す)」の3つがありますが、実務では売買が最も簡単で一般的です。現物出資は設立時の手続きが重くなり、賃貸は個人に不動産所得・雑所得が残り続けます。
なお、個人が消費税の課税事業者だった場合、法人への資産売却は個人側の課税売上になります(土地は非課税)。最終年の消費税申告で見落とされやすい点です。
金融機関からの借入金は、個人と金融機関との契約なので、法人が勝手に引き継ぐことはできません。方法は2つです。
ここで問題になるのが、引き継ぐ資産より引き継ぐ負債の方が大きいケースです。たとえば法人に移す車両や備品が300万円、引き継ぐ借入金が800万円なら、法人は500万円分多く負債を引き受けたことになり、その差額は「法人から個人への貸付金」=役員貸付金として残ります。個人事業の帳簿で「事業主貸」が大きく残っていた方は、ほぼこの形になります。
役員貸付金が残ると、法人は社長から利息を受け取るべきとされ、金融機関からは「会社のお金が社長個人に流れている」と見られ、融資審査でもマイナスに働きます。放置せず、次のどれかで解消の道筋をつけます。
よくあるご質問ですが、開始残高は設立時の貸借対照表(資本金と、その入金先の預金)だけです。個人事業から引き継ぐ資産負債は、基準日の日付で通常の仕訳として入力します(例:車両/役員借入金、借入金の引受なら役員貸付金/長期借入金)。開始残高に個人のBSをそのまま入れてしまうと、資本金と差額の整合がとれなくなります。
| 法人側 | 個人側 |
|---|---|
| 法人設立届出書(税務署・県税事務所・市役所) | 個人事業の廃業届出書(廃業から1か月以内) |
| 青色申告の承認申請書(設立3か月以内または1期末の前日までの早い方) | 所得税の青色申告の取りやめ届出書 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 給与支払事務所等の廃止届出書 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 事業廃止届出書(消費税・課税事業者だった場合) |
| 社会保険の新規適用届(年金事務所) | 最終年の確定申告(廃業日まで) |
本記事は公開日時点の法令・公表情報に基づく一般的な解説です。個別の税務判断は事業者ごとの事情により異なりますので、具体的な適用にあたっては個別にご相談ください。